Baselog -生活と家計の改善のログ-

家計と生活改善と読書のログ。

2025年6月の読書ログ「暴力の人類史」「そして誰もいなくなった」ほか

 

 

「暴力の人類史」

長すぎて気絶するかと思いましたがなんとか読みきりました!めちゃおもろかったです!!!

著者は、「現実において、人間がふるう暴力は、時を経るごとに大きく減少してきた」と主張しています。かつては当たり前だった奴隷市場や拷問、処刑、差別、弱者に対する権利侵害や、殺人や傷害事件の件数などは、おおいにその数を減らしています。本書ではこうした変化がどのようにして起きたのかを解説するために、上下巻あわせて1300ページ程が割かれています。

以下では、個人的にめちゃくちゃ感銘をうけた「自由市場の成立と”読書”が平和を作ったのではないか」という説について語らせてください。

 

経済的合理性と自由市場が平和を作った

中世後期になると、技術革新や経済の活性化が人々の”分業”と”交換”を促しました。

プラスサム・ゲームの基本は、分業によって生まれる余剰を交換することにあります。分業によって専門家が効率よく商品を生産し、それを取引することで社会全体に富が生まれます。こうした交換を支えたのが、輸送手段や貨幣、利子制度、仲介業者といった社会のインフラの発展と、国家による法整備でした。

このような自由市場の仕組みは、取引相手の生存に価値を見出させ、共感や相互理解を促します。自分以外の人間から略奪するよりも取引をするほうが魅力的になり、人々は衝動を抑え、計画的に行動し、他者の視点をもつ力を育てるようになったのです。

 

「啓蒙主義的人道主義」の誕生

しかし、経済的成長を促進することで人が優しくなり、暴力が減ったという直接的な因果関係は結べません。どれほど経済的に豊かな国や人であっても、暴力性を内包しています。

著者は、中世以降のヨーロッパで残酷な拷問や処刑が減少した理由のひとつとして、活版印刷の発明によって印刷物が流通し、識字率が上昇し、人々が本(特に小説)を多く読むようになったことで共感能力が高まり、「人道主義革命」が起きたのではないかと指摘しています。

15世紀の活版印刷の発明により、本の生産が飛躍的に効率化し、出版物が急増しました。17-18世紀には識字率も上昇し、多くの人が小説などの世俗的な書物に触れ、読書のあり方が宗教的・集団的なものから個人的・世俗的な営みに変化しました。

印刷物の普及により人びとは世界各地の知識や文化に触れ、多様な価値観を持つようになりました。このような精神の拡大が、近代の人道主義的な意識の広がりとつながります。とくに17-18世紀にはホッブズやスピノザ、ロック、カント、スミスらの思想が融合し、理性と観察を重視する「啓蒙主義的人道主義」が生まれました。

これは、人間は誤りを犯す存在であることを前提に、信仰や伝統よりも経験と理性に基づく判断を重視する立場です。この立場に立てば、他者も自分と同じように意識や感情を持ち、喜びや苦しみに反応する存在であると理解できます。そのため、理性に基づいて他者と意見を交わし、互いの利益や立場に配慮することが道徳性の基礎となります。

人々は本を読むことでより道徳的になり、暴力を減らすことができたのではないかという仮説は、個人的には絶対にそうじゃん!!!と唸らされました。物語や自分以外の人間の体験談が愛され、読み継がれ、人間の道徳性が育まれた結果、暴力が激減したという話はやや感動的すぎる気もしますし、現代に至るまで暴力が減り続けてきたのには、自由市場や読書革命以外にも多くの要因があります。が、このふたつが両輪駆動して中世後期の啓蒙主義に繋がっていったという話は個人的にだいぶアツかったです。

 

「そして誰もいなくなった」

古典ミステリーを読んでみよう強化週間の一環として、アガサ・クリスティーの代表作を読んでみました。

たいへんおもしろく読んだのですが、最後のトリックの部分でどうしても気になるところがあってモヤモヤし、とはいえアガサ・クリスティーが自分にあっていないだけかもしれないので別の作者の古典作品も読まなきゃな〜、と思っているところです。詳しくはnoteに書きましたので、「それは違うよ!!!」というご指摘などありましたらぜひお寄せいただきたいところです。

 

「締め切りより早く提出されたレポートはなぜつまらないのか 「先延ばし」と「前倒し」の心理学」

挑発的なタイトルに惹かれて「どんな驚きの新事実が書かれているんだろう!?」とワクワクしながらざっと一読したものの、内容にはあまり納得感のないまま読み終わってしまいました。

著者は「前倒し」をする傾向にある人の特徴として、タスクを手元に抱えている状態のストレスを多めに見積もりがちであったり、じっくり思考することが苦手であるなどと指摘しています。個人の感覚的な話をしてたいへん恐縮ですが、ぜったいにそうとは限らない……という気持ちにさせられるところが多くて、あまり好きな読み味ではなかったです。

おそらく、前倒しや先延ばしに関する知見はまだまだデータが少なく、研究の途中にあるのだと思います。そうであればなおさら、行動の善し悪しを性格や能力に結びつけるような断定的な語りは避けてほしいなと感じました。予防線を張っておけば少ないデータからどんな結論をこじつけてもいいというものではないと思いますし、そういう身勝手さみたいなものを感じ取ってしまって、不誠実な本だなぁという感想でした。