Baselog -生活と家計の改善のログ-

週休5日を夢見る派遣社員。

2024年7月の読書ログ「地下世界をめぐる冒険」「Invention and Innovation」「パーティーが終わって、中年が始まる」「フェルマーの最終定理」

 

7月に読んだ本のまとめです。

 

 

地下世界をめぐる冒険——闇に隠された人類史

地下世界に対する人間の本能的な恐怖と魅力に焦点を当て、古代から現代まで続く地下への畏怖について実体験をもとに語る冒険書。地底人の神話や、微生物学者による地下生命の発見を紹介し、地下が単なる物理的空間ではなく、心理的だったり宗教的だったりする複雑な”意味”をもつ場所であることを示しています。地上世界に依存しつつも、人間が無意識に抱く地下の神秘性と恐怖心が、現代人の行動や感情にも影響を与えていると語っています。

 

”地下世界”に対する感覚の違いがおもろい

地下空間に対する憧憬のようなものが全体を貫いていて、自分としてはいままで考えたこともなかった感覚だけにとても興味深く読みました。観光地になっている洞窟などもいくつか訪れたことはあるものの、「RPGっぽい〜〜」などという浅〜い感想しかもったことがない自分をちょっとだけ恥じました。

地下にあるアート空間、地下にいると生き生きする人たち、地下世界の生物、精霊や妖怪、伝説のグラフィティアーティスト、宗教行事、臨死体験などなどおもしろトピックもりもりでまったく飽きさせません。まるでファンタジー世界の冒険譚のようだけど、すべてノンフィクションという驚き。”地下空間”というワードで1冊書けるのすごいし、それだけ著者の情熱をひしひしと感じられる、いい本です。

登場人物はみんな地下世界に対して強い安心感や関心や想像力をもっていて、自分の精神と強く結びついているのだなと感じられます。そういう自分の魂の一部分が住む場所としての別世界をもっていることは、すごくいいことだなぁと思いました。私もラクシアという魂の故郷をもっているので……。

 

Invention and Innovation

有鉛ガソリンがもたらした健康被害などの事例をもとに、発明やイノベーションに対する懐疑を展開する一冊。また、そういった健康被害について、企業や社会が長期間黙認し続けたことへの批判も述べられています。発明やイノベーションが社会に与える影響を過大評価する現代社会に対し、真に優先すべき課題を見失っているのではないかと疑問を投げかけています。

 

インスタグラムやティックトックより「優先すべきことからやるべきだ」

内容はけっこう難しくてところどころ読み飛ばしまくってしまいましたが、著者の主張の骨子は、現代においては、テクノロジーは”加速度的進化”などしていないし、チューブの中を時速○kmで移動するよりももっと優先順位の高い問題解決に注力するべきだというものだと捉えました。それは本当にそう。

インスタグラムのアプリは、リリースを開始したその日に2万5000人のユーザーを、その1週後には100万人のユーザーを獲得した。たしかに、めまいがするほどの指数関数的成長ではあるが、これはあきらかに一時的なものにすぎない。無数の地球外文明と交信できるようにならないかぎり、インスタグラムが地球の人口を超えるユーザーを獲得することはできないからだ。では、まだ社員が13人しかいなかったときに、インスタグラムが10億ドルを超える金額でフェイスブック社(当時)に買収されたという事実は、指数関数的成長の卒倒するほどすばらしい例なのだろうか。それとも、現代社会には理不尽なまでに優位に立つ者がいるという例なのだろうか。これと比較するために、牛乳、パン、トマトなどを生産している企業の評価を調べてもらいたい。食料が絶え間なく供給されなければ、みなさんは生きていくことができないが、インスタグラムやティックトックがこの世から突然消えてしまっても、同じ地球に暮らす数億もの人たちは気づきもしないだろう。

失敗したり、逆効果だったり、地球規模でみればたいした意味などはなかったりするテクノロジーが無数にあるおかげで、本当に世界をよくするテクノロジーも生まれるという側面はあると思います。が、それにしても、ただ自分たちが豊かで先進的な生活を送られればそれでいいという欲望に突き動かされすぎなのではないかという気もします。

それによって見えなくなっているものや犠牲にしているものについてどこまでも無頓着に、鈍感になるのは、それはなにか”違う”よな〜ともぼんやり感じます。例によって、じゃあ個人レベルではどうしたらいいのかとかはよくわからないままですが……。

 

パーティーが終わって、中年が始まる

最も尊敬している作家であるphaさんの新刊が出たので買いました。最近四国の個人経営の本屋さんで出版記念?トークイベントをやっていたらしい……行けばよかった……。

phaさんは20代から30代後半にかけて人生がどんどん楽しくなっていったらしく、自分も体感的にはそうなんだけど、じゃあ40代に入ってphaさんと同じようなクライシスに陥る可能性もあるのかしら、ということが気になってしまいました。いまのところその気配はないけどそうなのかしら。それだとしたら今のうちに精一杯あれやこれやを楽しんでおかないと。仕事してる暇とかない。

本の内容とはあまり関係がありませんが、phaさんの尊敬できるところのひとつに、人付き合いを諦めていないどころか、たぶん根本的には人付き合いや他人のことが好きなのだろうなと思えるところがあります。自身では「人と深く付き合うのが苦手」といいつつ、シェアハウスの運営を10年も続けていられたのはすごい。

あとこの本に限らず、自分の身に起こったことのすべてがどこか他人事というか、ものごとの良し悪しについて自分のせいにも他人のせいにもしていない、あまりにもフラットな捉え方をする人なのだと思います。ぱっと見の印象として、たとえば「中年が始まる」というワードからはどちらかというとネガティブな連想をしそうなところ、「まぁそういうものだよね」と受け入れたり、受け流したりして重く受け止めすぎていないところがいい。ふつうの人なら問題意識が芽生えてしまいそうな出来事をまったく問題として捉えていなくて、淡々と事象を観察しています。天性のものかもしれないけど憧れてしまうな〜。

 

フェルマーの最終定理

古代から近代に至るまでの様々な数学トピックスが山のように、一見断片的に盛り込まれており、そのひとつひとつがゴリゴリの文系にもわかりやすくかみ砕かれていながら、最終的にはそれらがすべてフェルマーの最終定理の解明に伏線回収されるという、あまりにもテクニカルな筆力にぶん殴られます。最高の読書体験。

文系でも読めるとはききかじっていたけど、いうて難解な数式とかふつうに出てくるんでしょ……と思っていましたが、たぶん中盤ぐらいまでは中学で習う程度の数学力があれば(すんなり理解できるかどうかは別として)読み通すことは可能です。が、終盤は急速に話が入れ子構造になりはじめてE系列とかM系列とか出てきてもうお手上げ!ちなみに元論文は130ページぐらいあるらしくて気絶!

もちろん数学に強ければもっと内容を楽しめるとは思いますが、そうじゃなくても数学的な考え方というか、数学に強い人はどんなふうに思考したり、予想や定理に挑んでいくのかについて、ほんの片鱗でも垣間見られるのが楽しかったです。

 

「数学の論理的構造が真理の審判者」である(かっこよ……)

こうして数学は最初の偉大な英雄を失ったが、ピュタゴラスの精神は生き続けた。数と数の真実は不滅なのである。ピュタゴラスが示したのは、数学は他のどのような学問にもまして主観を排した学問だということだった。彼の弟子たちは、理論の正しさを決するために師の教えを乞う必要はなかった。ある理論が正しいかどうかは、人の意見には左右されないのである。それに代わって、数学の論理的構造が真理の審判者となった。これこそはピュタゴラスが文明になした最大の貢献だったーーわれわれは誤りをまぬがれない人間存在の判断を超えて、真理を見出す方法を手に入れたのである。

数学は他のどのような学問にもまして主観を排した学問」だという定義は、アホみたいな感想で恐縮ですが「かっこいい……」となりました。文系学問とはやはり根本の思想からちがいます。数学は特に得意でも苦手でもなかったような気がするのですが、このシンプルである意味マッチョな思想には惹かれるものがあります。