Baselog -生活と家計の改善のログ-

家計と生活改善と読書のログ。

2025年2月の読書ログ「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」「ハヤブサを盗んだ男」ほか

 

「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」

本書では「現代人にとっての読書はノイズである」という視点から、現代における情報収集のあり方について論じられています。

たしかに、忙しい日々のなかで人は”今すぐに役に立つ知識”を優先しがちです。特に、学んだことをすぐに実生活で活かせるぐらい社会との結びつきの強い人は、より効率の良い情報収集を重視し、本を読む時間が減っていくのも自然な流れかもしれません。

一方で、純粋な好奇心は「役に立つかどうか」ではなく、「ただ知りたい」という気持ちによって動かされるものであり、そもそものアプローチが人によって異なるというのは、今も昔も変わらない事象なのかなとも感じました。

 

「ハヤブサを盗んだ男――野鳥闇取引に隠されたドラマ」

その名の通り“ハヤブサの卵を盗んだ男”の物語。なぜそんなものを盗むのかと思えば、中東の王侯貴族たちがハヤブサレースに夢中になり、最強最速の鳥を求めて莫大な金をつぎ込む文化があるからだとか。もはやトレーディングカードゲームの世界観。

ジェフリー・レンドラムは、何度も逮捕されながらも危険な冒険に身を投じ続ける人物。彼は犯罪者でありながらどこか魅力的な人物として描写されており、著者の視点も単なる善悪二元論には収まらず、レンドラムという人物に強く惹き寄せられています。

犯罪のディテールは時に滑稽に描かれながらも、彼の人間性には一定の評価が与えられており、警察官のマクウィリアムすら彼を認めているほど。犯罪ノンフィクションとしてどこか異質で、ユニークな1冊です。

 

「いなくなっていない父」

失踪を繰り返す父親について語る本ですが、著者の語り口は驚くほど穏やかで中立的です。父の振る舞いにしても、著者自身の視点に対しても、どこか傍観者のような距離感があります。と同時に、本書からは、「家族について語る難しさ」というテーマに真っ向から挑む、ある種の勇気のようなものを垣間見ることもできます。

家族に対する思いを言葉にしようとすると、どうしても自己弁護や自己憐憫に寄ってしまいがちですが、そこに生じる“フェアでなさ”についてちゃんと自覚的に、誠実に記述しようという態度が見受けられます。浅くて薄っぺらいけど、なんとなく聴き心地のいい”結論めいたもの”に陥ることを徹底的に避けるように、慎重に言葉を積み重ねている点が魅力的でした。

 

「アメリカは自己啓発本でできている」

本書のスタンスは、いわゆる”自己啓発本について語る本”にありがちな冷笑的な視点とは対極にあります。こうした本に頼らなければならない人たちの立場に寄り添い、馬鹿にすることなく真摯に向き合っている点が印象的でした。異常にテンポ感がよく、軽快な文章でスラスラと読めるだけでなく、自己啓発本の中には“トンデモ”なものもあることをきちんと指摘している点も「ちゃんとしてるなぁ……!!」となります。

特におもしろかったのは、かの有名な「引き寄せの法則」にもそれなりの論拠が存在し、支持者の解釈においては一種の神学として成立しているという考察です。「引き寄せの法則」は宇宙の法則などそれっぽい概念を寄せ集めた“トンデモ”な話ではあるのですが、著者の指摘によればそれは、例えば神を信じることとなんの矛盾もなく成立する、歴とした理屈を持っているものです。そして、人はそうした物語的な説明に触れることで、前向きに行動するための活力を得ることがあるのだと解説されていて、非常に納得させられました。

 

「どこでもいいからどこかへ行きたい」

THE・phaさんの文章という趣きの、とても良い本でした。少し前の著作ではありますし、現状とは異なる部分も多いです。そもそもphaさんはもうシェアハウスに住んでいないという点がいちばん大きな違いですが、自分が晴れて無職になったこのタイミングで、偉大すぎる先人の書を読めたのはとても良かったと感じています。

もはやphaさんの文章や思想は自分の思考回路のベースの部分を形作っているため、読んだことのない本であっても、知っていることや何度も聞いたような話が多くあります。しかし、それで飽きることはまったくなく、読んでいてただひたすらに心地よく、ちょうどいい温度感で浸っていられる気がしてしまいます。こんなに気持ちのいい温度の作家は他に知らないレベル。ずっと文章を書き続けていてほしいし読ませてほしいなと思ってしまいます。

 

「タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源」

この本はおもしろすぎたので自分用のまとめもかねて個別記事を書きました。

www.raccasa.com